子を愛せる親、愛せない親
私子どもを堕ろしたことがあるんです。母性がないんです。母性って母から子へ受け継がれていくバトンのようなものだと思うんです。だけど、私にはそのバトンが来なかった。
- 博美の言葉
- 百合子は恭一郎のことを親として愛していた。鬱病になり、恭一郎を殺す可能性のある自分に気づき、離れて生きることを決断した。
- 博美の母は厚子は男に貢ぐために夫の忠雄、博美を捨てた。お金の全て持ち出して、忠雄の実印で莫大な借金をつくる悪行ぶり。それにより忠雄たちは夜逃げせざる得なくなる。
- 忠雄は厚子に地獄に落とされてながらも必死に博美を守った。自殺を考えるほど追い込まれながらも全てを捨ててまで博美を守った。
あの世に行くのがか?いや、楽しみで仕方がないよ。あそこからなら好きなだけあいつを眺めていられる。肉体なんて邪魔なだけだ。
- 恭一郎の父、隆正の言葉。
- 生前恭一郎とは仲違いをしていたが、隆正は恭一郎を愛していた。
- 隆正は仕事が忙しく、不器用な性格だった。家にいないことで百合子は親戚からいじめられ、鬱病になる。百合子は出ていき、恭一郎は隆正を恨むようになる。恭一郎の家族は博美の家族とは違い、少しボタンの掛け違いにから大きな問題になっていった。百合子も隆正も子を愛していただけに悲しい。
私は弱い母親でした。でも恭一郎は違います。これからもっと立派になる。父親と私の想像さえも超えて。
おせっかいな女
- 道子は老人ホームにいた厚子を偶然発見する。その後博美のもとに行き、引き取るように言う。
- 厚子の様子を見れば、普通の状態ではないとわからないものか。
- 道子は博美の怒りを見た後も劇場で見かけた自殺したことになっていた忠雄を追いかける。
- なぜこうも土足で人の関係性に踏み込める?こういう人間がいる。良かれと思って、善人だと思って行動して、大きな悪影響を他人に及ぼす。
- なぜ気づかないのか。想像力、相手の反応から察知する能力の欠如。厚子の話をした時の博美の怒りの様子から察知して、想像し、確認する。嫌がるなら二度と関わらない。そうすれば殺されることはなかった。
因果応報
一応覚えているようやな。捨てた子どもの顔ぐらいは。あんただけは許せへん。恨んでも憎んでも足らんわ。出ていくだけやったらまだええ。男に貢ぐためにお父ちゃんの実印でようさん借金こさえて。あんたの淫乱のせいでお父ちゃんはな、お父ちゃんは。あんただけは地獄に落ちてもらう。お父ちゃんが味わった以上の地獄にな。
- 厚子の老人ホームでの様子を見れば、厚子をまた地獄を歩んできた。ただそれは忠雄たちが味わった地獄とは種類が異なる。人を自分の私利私欲のために犠牲にしてきた末の因果応報。
鋼の絆
博美、お父ちゃんの願いは博美が幸せになることだけだ。それ以外のことはどうだっていい。博美が屋根の下で暮らせて、学校に行けて、好きで好きでたまらないものを見つけて、それを仕事にして夢を持って生きていくんだ。それでいつか好きな人ができて、幸せになって・・・
やんなさい。博美ならできる大丈夫だ。挑戦していつか明治座で博美の舞台ができるといいな。お父ちゃんまた楽しみが増えたよ。いつか死んだらお父ちゃん明治座に取り憑こうかな。そしたら博美の舞台、好きなだけ見ていられるし。
博美なら大丈夫、絶対幸せになれる。
お前の未来は俺の宝だ。それだけは失いたくなかった。
- 「浅居忠雄は複雑だったでしょう。自分の存在が世間に知れれば娘は破滅する。いわば彼自身がパンドラの箱だったわけです。」
- 娘のために目立つことはしたくない、その一心で忠雄は百合子と再婚しなかった。
あの日、あなたに初めて会った時、不思議ですけど確信したんです。父が愛した人はきっと素晴らしい人だったって。救われた気がしました。父の人生は悲劇なんかじゃなかったって思えて。
ごめんね、私を守るためにたくさん辛い思いをさせちゃったね。でも大丈夫、今度は私がお父ちゃんを守るから。・・・お父ちゃん今までありがとう。
幸せであってほしいという祈り
嘘は真実の影、その影に何を見るのか。それはきっと悲劇だけではない。嘘が映すのは人の心そのものだから。
- 恭一郎は母親が幸せでいたことを祈る。博美は忠雄が幸せでいたことを祈る。忠雄は博美の幸せを、百合子は恭一郎の幸せを祈る。
- 誰かを思う気持ち、与えたものはいつまでも残る。反対に何かを奪うこと、誰かを虐げること、この負の影響、連鎖を止めるには真摯な悔い改めの行程が必要になる。