- ミケランジェロの作品は筋肉質で力強さが目立つ、反対にミケランジェロ自身は弱く、繊細で、不健康でいつも人の目ばかり気にし、苦悩に満ちた人生を歩んだ。ロマンロランは英雄としてのミケランジェロではなく、ありのままの彼について書いた。
- 教皇や権力者からのパワハラと気まぐれ。有能であるゆえに奴隷のように働かされた。
- 強制労働される囚人のようだった。食べ物はパンとぶどう酒だけ、寝るのもほんの数時間、身につけた衣服は脱ぐことなく、靴を履いたまま寝た。足が腫れ上がって靴が脱げなくなり、切り裂いて脱ごうとしたら足の皮が剥がれた。
- 教皇ユリウス2世に自身の墓の制作を依頼される。ミケランジェロは興奮して8ヶ月部屋にこもってプロジェクトに取り掛かる。しかしユリウス2世は気まぐれな人で違うプロジェクトに興味が移った。プロジェクトは中断され、それまでかかった費用は全てミケランジェロが負い、借金を背負うこととなった。これではあんまりだと抗議をすると、宮殿から追い出された。
- ユリウス2世はその後、ミケランジェロを呼び戻し、別の天井壁画制作の仕事を命令した。壁画制作はミケランジェロにとって不得意分野、専門外だった。さらにラファエロが同じユリウス2世からの指示で制作した壁画が大成功していたので失敗もできなかった。
- 教皇からは一年も支払いがなく、無一文で働いている。さらにそんな中でも彼の家族はミケランジェロを支えるのではなく、頼った。愚痴を話し、お金をせがんだ。
- 地獄のような苦しみを対価に壁画を完成させた、ずっと上を向いて天井に描き続けていたので、骨格は崩れ、絵の具を浴びて視力は悪化した。彼自身肉体美に魅力を感じていたので、これは大きなコンプレックスとなった。
- ミケランジェロはそんな権力者たちを恨む訳ではなく、お金をもらいながら中途半端な作品を作り続けていると思う自分を責め続けた。そんな繊細なミケランジェロを家族は馬鹿にした。
- 晩年まで働き続けた彼に待っていたのは孤独だった。同性愛者で当時の時代背景上、結婚できなかった。仲間もいない。そんな中当時の平均寿命を大きく上回る、88歳まで生きた。どんなに栄誉を手に入れてもその心渇くだけだった。彼は「こんなにも望みながら、死は私を迎えに来ない」そんな言葉を残している。
- 彼は最後まで働き続けた、芸術だけが彼にとっての最後の居場所だった。
- ロマンロランがミケランジェロの栄光だけでなく、苦しみも書くことで伝えたかったこと。この世界をあるがままにみること、そしてそれを愛すること。人生の喜びだけでなく、そこにある苦しみを一緒に讃えよう。この二つは姉妹であり、いずれもが聖なるものである。この両方を愛せない人間はどちらも愛することはできない。真の勇気を持って両方を愛し抜いた人間だけが人生の本当の価値を知るのだ。
- ミケランジェロのような現在でも語り継がれる偉大な人物の一生はさぞ幸福に満ちたものだったのだろうと想像してしまいがちだ。実際は耐え難い苦痛に満ちたものだった。ただロマンロランが言うように苦痛のない栄光はあり得ないということだ。栄光を得たいのならば苦痛をも愛する必要がある。